地中深くからのミネラルを美しく液体に宿したワイン
ロワールでワインつくりをしていたシリル・ファルが、南仏のルーション地方ラトゥール・ドゥ・フランスに移り住みワイン造りを始めたのは2002年のこと。ラトゥール・ドゥ・フランスはスペインとの国境にほど近い町、ペルピニャンの西にある小さな村です。ドメーヌ名は、CLOS DU ROUGE GORGE(クロ・デュ・ルージュ・ゴルジュ)。ルージュ・ゴルジュはのど元の赤い小さな鳥の名前から来ています。シスト土壌からなる5haの畑を丁寧に、自然循環を大切にしながら畑仕事をしています。点在する区画は標高200〜250mに位置しており、古樹のカリニャンやグルナッシュ、サンソー、マカブーなどが植えられています。ラトゥール・ドゥ・フランスという日本では馴染みのない場所で造られるワインですが、彼のつくるワインは私たちには南仏で出会った指折り数える素晴らしいワインの一つです。シリルは凝縮したタンニンのある、ある意味で南仏らしいワインをつくりたいとは思っていません。ブドウの樹の根が地中深くに張り、限りなくシンプルに「ミネラル」を液体に反映したワインを目指しています。人と大地とを繋いでくれるピュアな液体を造るためだけに、日々畑仕事と向き合います。根が1cmでも深く地中に根を張れるように、彼は日々知識を蓄え、畑と向き合い、経験を積み重ね、それをさらに畑にフィードバックしていきます。暑い南仏では馬で優しく耕すことで土に空気が入り熱を吸収しずらくなるそうです。畑に冷涼感や水気を残す工夫を積み重ねています。誰からも愛される人柄のシリルですが、決して自分から外に出るタイプの人ではなく、フランス各地で開催される試飲会にもほぼ参加することがありません。深く深く掘り下げる奇才変人とも呼べる存在かもしれませんが、その誠実な人柄とストイックな畑仕事とワイン造りは、多くの生産者やカーヴィストから絶大な信頼を得ています。素晴らしい生産者がひしめくルーション地方にあっても孤高の存在とも呼べる、誇り高いヴィニュロンであり、液体もまた唯一無二のものだと感じています。南仏の照りつける太陽や凝縮したブドウ...といった外的なテロワールはそのミレジムを反映する要素として存在し、本質として地中深くのミネラルが美しく、甘美を持って液体に宿っています。会うたびに畑に出てすべきことがたくさんある、サロン(試飲会)や人と会う時間が惜しいんだとシリル。ペイザン(農家)としても本質を求める姿が印象的であり、脇目もふらず探求し、さらなる先を見つめ続けるシリル。彼の在り方に尊敬の念を心から抱かずにはいられないのです。
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